全国的にどんどん数が増えているコワーキングスペースやシェアオフィスですが、実際どんな方が利用しているのでしょうか。
コワーキングスペースの受付勤務の筆者が、特に印象に残った利用者さんのお話をさせて頂きたいと思います。
そもそも、コワーキングスペースとは、英語では「Coworking」と書き、「Co」は共有、「Working」は労働、働くことを意味します。
すなわち、仕事場、作業場、事務所などを共有すると言う意味で、空いている好きな席に座って仕事をするスペースの事ですが、最近では指定の席やスペースを自分専用の場所として契約したり、ロッカーのレンタルや住所や登記の利用など、その一角で1つの事務所として成り立ってしまう。
と言うようなやり方をする方もいて、サービスも大変充実しています。
また、働き方改革で、ダブルワークOKの職場も増えて来て、会社帰りにコワーキングスペース内の自分の事務所に寄って仕事をする、と言う方も居るようです。
今回はその固定席を利用している、ちょっと面白い方のお話をしたいと思います。
私の働くコワーキングスペースはビルの3階で、他の階はパチンコや劇場、カラオケなど、ちょっと変わった施設の中にあります。
以前はなんのテナントも無く椅子とテーブルが置いてあるような休憩スペースだった為、その名残でいまだに迷い人がやってきます。
エレベーターを下りるとすぐに受け付けがある為、だいたいの方は驚いてすぐにエレベーターに引き返して帰って行きます。
ある日、リュックサックを背負った小さなおじいさんがスマホ片手にエレベーターから下りてきました。
また迷い人さんだとは思いましたが、ちょっと戸惑いながらも「ここは何?」と話しかけて来たので、少しご案内させて頂きました。
コワーキングスペースに初めて来た方をご案内する際には、その方がどのような目的で利用したいのかヒアリングをする決まりになっているので、なぜここに来たのか、普段は何をしているのか等を質問してみました。
すると、予想通り「スマホのモンスターを探すゲームで散歩していたら、間違って入って来てしまっただけ」とのことでした。
お仕事も港の市場でひものを作っていると。
多分この方は、コワーキングスペースという場所からは縁遠い方だろうな。
と失礼ながら感じていました。
ただ、とにかく色々な事を聞いてくるので、全ての施設とサービスの説明をしました。
私の職場にも、自分だけの席が契約できる固定席のサービスがありますので、もちろんその説明もしました。
すると、ただ迷って入って来ただけのそのおじいさんは、帰りには自分の席を契約して帰って行き、次の日から毎日、朝が早いひもの屋さんの仕事を終えたお昼過ぎくらいに、決まってやってくるようになったのです。
毎日やってくるそのおじいさん。
始めのうちは読書をしたり、同じ固定席の契約者の方に話しかけたり、何をしているのか分からなかったので、何の為に契約したのだろう、ただ寂しいからだろう。と思っていました。
そのうち、誰彼構わず利用者さんにどんどん声をかけるようになり、正直少し困った顔をする方も居ましたので、目を光らせる日々が続きました。
しかし、徐々に周囲からは、いつもいるおじいさん的な存在として認知され、お話する相手もだいたい決まって来たので、他に迷惑をかける事も無く、毎日楽しそうに過ごして帰って行きます。
ただ、それだけだったのです。
お友達が欲しかっただけなのだろう。
それならば、毎月高い利用料を支払って固定席など利用せずに、フリースペースで充分ではないかと、スタッフ同士話をした事もありました。
本当に彼に固定席は必要なのでしょうか・・・。
ある日、筆者の職場で異業種交流会が開催される事になり、ちょっとした軽食などがついて、そこそこの参加費がかかる会でしたが、そのおじいさんは参加を希望されました。
きっとまたお話がしたいだけなんだろうと、スタッフ全員が思っていたと思います。
しかし、スタッフが司会を担当し、自己紹介の為におじいさんにマイクを回すと、そのおじいさんは意外な事を話しはじめました。
なんと、ずっと昔から働いている恩のあるひもの屋の業績が落ち込んでいるため、ネットでひものの販売を始めたい事、昔投資で大損して家まで取られたが、また小さな投資で細々儲けている事、名刺を作ってくれるデザイナーさんを探している事・・・まだまだ出てきましたが、とにかくそのおじいさんにはこれからやりたい事が山ほどあったのです。
みんなに話しかけたのは、新しい事を始める為の人脈作りや情報収集で、若い子達と話をする事で、今どんな事が流行っていて、どんな事をすると物が売れるのか、しっかり研究していました。
彼のデスクにはビジネス本が積まれ、デスクトップのパソコンに、タブレット、スマホと全てを使いこなし、同僚のアメリカ人を招いて英会話まで始めたのです。
きっかけは、ただ分かりにくいビルに迷い込んでしまっただけのおじいさん。
コワーキングスペースという未知の世界の扉を開けたとたん、立派なダブルワークのビジネスマンになってしまいました。
英会話は苦手な様でなかなか上達しませんが、ひもの屋の現場で朝から働いた後にコワーキングスペースに毎日やって来て、そこで出会った仲間達に助けられ、自分のデスクでHPを運営し、まだまだ少ない注文ですが干物を売り始め、名刺を持って、ソーシャルビジネスや資産形成などのセミナーに積極的に参加して忙しそうにしています。
(別料金で登記や住所も登録!)
きっと、お散歩しながら漠然と考える日々だったんだと思います。
潰れそうなひもの屋をなんとか出来ないか。
たまたま迷い込んだ先で、家賃もインターネット代も光熱費もかからずに事務所が持てるなんて、思っても見なかったことでしょう。
今後もおじいさんの活躍を見守って行きたいと思います。
コワーキングスペースとは、誰もすぐに利用できて、が小さな夢を叶える為の通り道の様な物なのかも知れませんね。
クラウドオフィスに発信致します。
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